● 『小説 恐怖の裁判員制度』補足
第4回:裁判員にされない方法(続) 雨宮惜秋
硬派の男性にふさわしい方法(しかし、女性が採用して悪い理由はありません)
重要な用務について簡潔に書き記して、この用務は自分にとって最重要事項である。従って裁判所がこの重要性を否定して自分を呼び出しても、その召喚には絶対に応じない。過料については承知している。この用務は10万円くらいのことには代えられない大切なことだと考えている。それと同時に自分は裁判員制度は憲法違反だと思うので、過料の支払いについては最高裁まで争い、国の差押え命令に対しては「請求異議の訴え」「執行抗告」「執行異議」などのあらゆる手段を講じて争うべきかどうか、目下考慮中である。――と添え書きしておけば、もしも私が裁判長ならば、こんな厄介なうろんな人物をわざわざ呼び出そうとは思いません。
女性向きの非論理的な書き方(男性の場合には、それぞれの年齢や個性を考えて、不自然でないように工夫する必要があります)
一応、重要な用務を書きます。そして――私はなにがあってもなくても裁判所には行きません。裁判なんてそんな恐ろしいことはできません。嫌です。ダメです。私をいじめないで下さい。毎日、気持ちが悪くて、心臓がドキドキして死にそうな気分です。裁判中にきっと、貧血を起こして倒れてしまいます。ヤメテ下さい。呼び出さないで下さい。私にヒドいことをしないで下さい。ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ下さい。――こんな具合に紙中に書き散らしておきます。裁判所側が少しイカれた変な女だと思ってくれたら成功です。裁判の進行にマイナスになりそうな人物をわざわざ呼び出したりはしないでしょう。
特に徴用拒否のための用務がない場合
その人にとって何が大切なのかを決めるのはその人自身です。それが毎日の仕事であれ、商売であれ、老人の世話をすることであったとしても、それを裁判所が勝手に判断をするのは正しいこととは思えません。だから……裁判員を務めるつもりはない。絶対にやらないと、ハッキリ書いて意思表示だけは明確にしておきましょう。
仮に呼び出しを受けて裁判所に出頭したとしても、その日半日だけのことで帰宅する作戦のそれは伏線になります。
裁判員徴用逃れ その4 「裁判員選任のために召喚されてからの徴用拒否作戦」
◆《作戦その1》
裁判員選任の手続きは、裁判長と裁判官2名、検察官、弁護人の5人対裁判員候補1名という構図で行われます。この雰囲気に威圧されてしまったのでは万事おしまいですから、どのような手段をとるにしても腹を据えて最後までやり通さなくてはなりません。
この作戦の基本的な考え方は、裁判所側が裁判員として嫌な人物、裁判員として採用したくない人物としてふるまうことにあります。そして裁判長がこんな人物はいらない、さっさと帰ってくれと思ってくれたならば、裁判員徴用拒否作戦は100%成功です。
ここで注意すべきことは、断じて粗暴な言動に出てはならないということです。なにがあっても、どんなにムカついても、バカヤローとかブッ殺すとか、決して口走ってはなりません。机を叩いたり、立ち上がって怒鳴ったりしてもいけません。相手は裁判官と検察官ですから、そんなことをしたらそのままブタ箱に直行することになりかねません。あくまでも礼儀正しく穏やかな態度をキープしながら作戦を遂行します。率直に正面から自分の都合を述べて決意を示した場合に、裁判長は敢えてその人物を徴用するとは思えません。人材はいくらでもいることですし、裁判に参加したいと考えている人たちもいるのですから、嫌だとハッキリ言っている人間をはずす方が普通です。
この場合大切なことは、あくまでも個人としての生活の都合と決意を述べるだけで、裁判員制度が憲法違反だとか、人権侵害だとか、死刑判決には同意できないとか、そういうことは一切口にしないことです。間違っても、法律上の論争に引き込まれないようにしなくてはなりません。相手はそのジャンルではプロ中のプロなのですから、相手の土俵に乗せられて、論駁され説得されてしまわないように注意して下さい。具体的には、次のような発言をします。
【例】「私は決して裁判員をやりません。私には重要な用務があります。誰がなんと言おうとも、それは私にとってはこの上もなく大切なことなのです。それに、そういう用務があろうとなかろうと、私は裁判員をやりません。わけなんかありません。嫌なものは嫌なんです。だから、今日私が裁判員に選ばれたとしても帰ります。二度と裁判所には来ません。今日はそれを申し上げるために参りました。以上です」
このあとは、裁判長から何を言われようとも、嫌なものは嫌。帰ります、帰ります。もう来ない。――これを壊れたレコードのように繰り返していれば、大概の裁判長はあなたに感服して、あるいはあきれ果ててあなたの言い分を通してくれると思います。
◆《作戦その2》
もしもあなたが見るからに頼り無さそうなシャイな女性ならば、その性格のままに、むしろそれを強調してふるまうことです。自制する必要はありません。しっかりなんかしなくてもいいのです。性格のままにビクビクオドオドしながら着席してなにを聞かれても、うわの空で返事をしながら頃合いを見計らって突然泣き出してしまうというのは有効な方法です。
【例】「わたし、裁判員なんて、裁判なんてできません。ごめんなさい、ごめんなさい。でもできません。こわいのです。ごめんなさい、ごめんなさい。でもダメなんです。どうしてわたしなんか呼んだんですか。ひどいわ、ひどいわ。わたしをいじめないで下さい。あっ、変なことを言っちゃって、ごめんなさい。(泣き出す、エーン、エーン)」
こういう難儀な女性をもてあまさずに裁判員にしようと思う裁判官はまずいないと思います。
◆《作戦その3》
敢然と自己主張をするのは苦手、泣いたりするようなパフォーマンスなどとてもできないという場合には、最後の手段として酔っぱらって出頭するという手があります。別段へべれけに酔っぱらってしまう必要はありません。飲んでいるということが裁判長に分かればそれでいいのです。極端な言い方をすれば、霧吹きで酒を上着に吹き付けておいて、眠そうな顔をしていても効果は同じでしょう。
裁判長に「あなたはいつも酒を飲んでいるのか」と質問されたら「昔から晩酌をやっているけど飲み過ぎたことはない。質問票が来て以来はいささか酒量が増えたかもしれないが、それでしくじるようなことマネはしていない。大丈夫です。大丈夫です。まかして下さい。へっちゃらですよ。大丈夫。大丈夫」と大丈夫を繰り返しながら眼をカッと見開いて、宙の一点を凝視しながら茫然としているか、腕を組んで下を向いているか。わけもなくニコニコしているかすれば、数分と経たずに退室を命じられると思います。
考えられるパターンは、この3種類くらいです。なによりも礼儀正しくふるまって裁判長に嫌われるように仕向けることがポイントでは。自分にふさわしい方法をご自身で工夫してみてはいかがでしょうか。
では、皆様のご健闘を祈ります。
Good Luck!
